『森薫と入江亜季展』感想

 写真撮影OK!という神対応に感謝しつつ、撮ったら安心しちゃう人間なので、できるだけ脳みそに焼き付けながら舐め回すように鑑賞しました。(脳みそが疲れ果てました。)

※SNS等の投稿についても、解像度を下げたり展示風景などであればOKとのことなので、一部掲載させていただいております。

 森先生のあの描き込み量が実際目の前に来ると、とにかく細かくて、かつ、こんなふうに描けばいいのか…(描けるかどうかは別)と見ていてアドレナリンがドバドバになりました……。

 入江先生は白黒画はもちろんのこと、カラーの色彩の鮮やかさ、白と余白の使い方、構図のうまさ惚れ惚れします。

目次

キャプションも最高でした

 キャプションは作品の解像度上がるので大好きなのですが、原画を見つつしっかり読むとぐったり疲れます。キャプションも最高によかったので、一部抜粋して紹介させてください。漫画家さん、漫画家志望さんにとってもとても勇気が出るものが多かったように思います。

商業漫画をいかに描くか

ただメイドメイドとつぶやいているやたら熱量が高いだけのオタクだったので、 連載漫画としてのお話作りもコマ割りも、基本的な漫画文法も何もわかっていません。 何度打ち合わせを重ねても、ただ断片的な素敵メイドさんのときめきシーンが 積みあがっていくばかりです。よく編集者が投げ出さなかったものだと思います。

その後、編集者と私のどちらかが言い出したかわかりませんが、 面白いお話を考えるのはあきらめて演出にのみ振り切ろうということになりました。 できないことはできないのだから、できることにのみ集中するお話の筋はとにかく単純にわかりやすく、ひとつひとつのシーン、 毎回の一話一話を面白いものにして読者に楽しんでもらおう。 誰でも知っている昔話や古典劇を新演出で上演するようなものです。

恋愛ものにすることもその時に決まりました。 編集者からいくつかお話の型を提示されて、消去法で唯一かすかな可能性を感じたのが恋愛ものでした。メイドとジェントリ、身分差のあるふたりが なんやかんやあって結ばれる、という非常に単純な筋を、魅力的な人物とシーン、 毎回のアイデアで楽しめるものにする。そうして始まったのが『エマ』という作品です。(森薫)

『エマ』全10巻「月刊コミックビーム」2002年1月-2008年3月

物語とは感情を描くもの

この時はとにかく今回はシャーリーを喜ばせたい、次は泣かせたい、ということだけを考えて描いていたように思います。(『シャーリー』)

 こちらは同人誌時代に描かれた作品について添えられたキャプションの一部。漫画スクールで散々「物語は感情を描くもの」と聞かされたところだったので、やはり感情を描くと物語になるんだなあ…としみじみ思ったのでした。(好きなキャラクターの喜怒哀楽はなんぼでも見たいもんね。)

ラブシーン描いていて恥ずかしい問題

最初にこのシーンのネームを描いた時は恥ずかしくてふたりをかなり小さく描いてしまいました。

編集者に「何をやっているかわからない」と指摘され、がんばって大きく描きました。今見直しても中々に恥ずかしいです。

見直して恥ずかしいということは、手先ではなく心から描いたということで、決して悪いことではありません。

でも恥ずかしいことに変わりない。 (『エマ』第8話)

 現在ありがたくも編集者さんとやりとりをさせてもらっていて「ラブシーン描くの恥ずかしい!」と思っていたところ、森先生ですら恥ずかしいと思うんだ…!と僭越ながら共感してしまい…。「気持ちが乗ってる証拠」、と背中を押された気がします。

完璧を目指しては一歩も前に進めない

誰でも最初から全てを知っているわけではありません。(略)

それでもとにかく描けば何が間違っているのか何を知らないのかが解ります。間違いを指摘されたら、すみませんと謝って次から直せばいいだけです。

萎縮して作品を描かなくなってしまうよりは、 時間の許す範囲で資料にあたり、できる限り世に送り出してほしいと願っています。

 完璧主義に陥って何も描けなくなっていそうな方(私)に読んで欲しい……大事なマインド。ついもっと調べないと!と焦ることがあり、こちらも勇気をもらえるお言葉でした。とりあえず描いてみろって。な。

楽しみ、勉強し続ける

とにかく自然物が描けない、特に植物を描くのが下手だと痛感しました。自分で植木でも育ててみたら少しは上手く描けるようになるだろうかと思ったのが、観葉植物を育てるようになったきっかけです。(『エマ』第16話 視線の先)

植物を地道に育てたおかげか、このころにはかなり植物が描けるようになりました。結局のところは観察と対象物への理解度なので、育てなくても、よく見ていれば描けるようにはなるはずです。でも植木をそだてるのも、それはそれで楽しいですよね。(『エマ』第21話 ミセス・トロロープ)

 プロになっても勉強し続ける姿勢と好奇心…!(植物を育てようとして枯らし、本を読み知識を得て、半年後にはしっかり育てつつ描けるようになっている森先生。)

 そういえば昔からお世話になっている人気の美容師さんも、独立した今でも講習会に参加して「まだまだ知らないことがある」と仰っていたのを思い出し、プロになっても終わりなき探求心に痺れて憧れるのでした。

 森先生のキャプションは、言い回しなどもなんだか優しくて楽しいので読んでいて癒されます。

見開きについて

見開きというのは時間を止めるもので、一瞬の永遠であると考えています。

 なんて言い得て妙なんだろう……と思った言葉。1ページの大コマももちろん良いんですけど、ページをめくった先にある見開きの世界は何物にも変え難い気がしています。web掲載になると見開きページは敬遠されがちなんですが、画面上で分割されようとも、めくったとき感じた見開きの一瞬の永遠は心に刻まれる気がしています。

漫画ができるまで

①構想

どんなマンガを描きたいのか、クロッキー帳に絵と文字で描き出しながら考える。

コマのつながり、構図・1ページ内でのコマの組み方、全体でのページ構成もここで考える。

作画より前の段階では、ここにかなりの時間がかかります。

★ バラバラのイラスト・コマ切れのセリフなど、とりあえず考えたことを全部出して、大いに妄想を爆発させる。

★コマのつながり→コマ組み→ページ構成と、段階に分けて考えると頭の整理がつきやすい。

②ネーム

構想を元に、実際の誌面に印刷されたときのことを 意識して、簡単に鉛筆マンガを描く。

フキダシ(セリフ)の位置が読みやすさや流れにとって大事なのでここの段階で調整する。

これを見ながら編集者と打ち合わせをして、意見を聞きながら描き直したり、部分的に変えたり、ボツったりなどする。

 アイデアの出し方が気になったため一部抜粋。やはり妄想を爆発させるのには時間がかかりますよね…。妄想を定期的にうまく爆発させるのが今後の課題。

まとめ

 両先生とも同人活動からの出発で「直接、読者の方の顔と反応が見れたのは(読んでくれる人がいるんだと)、プロなってからも力になった」とおっしゃられていたのも印象深かったです。私自身も二次創作から一次創作へ身を置きながら、作品を読んでくださる皆さんに感謝しながら日々過ごしています……ありがとう……。

 「漫画の未来と未来の漫画家へ」という両先生からのお言葉も、沁みる人は多そう。

今の私の中でいいなー!と思ったところをピックアップしましたが、人それぞれ抱える課題や悩みはきっと違うので、実際観に行けばご自身の視点で楽しめると思います。タイミングが合えば、ぜひ行ってみてください。

 会場の規模自体は大きくなく、さらっと見れば30分くらいの人もいそうですが…しっかり観たい方は2〜3時間あったほうがいいかなと思います。私は2時間強くらいで脳みそがバテました。良い展覧会は良い意味で疲れるので最高です。

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